*あらすじ*
雪のように白い肌の、美しいアイゼル姫は、継母である王妃ヘルミーナに嫉妬され、命を狙われる。
騎士隊長エンデルクの情けにより城から逃れたものの、
城から遠く離れた森の中に置き去られたアイゼル姫は、親切な森の妖精さんたちに助けられる...。
さて、我らがアイゼル姫の運命やいかにっ!
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「さて、一方お城では。 『さあ、これであの小娘もいなくなったことだし、次は大丈夫だわね』 王妃は再び、鏡に問いかけました。 『鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?』 |
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「鏡は再び答えました。 『それは、アイゼル姫さまです』 |
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「『なんですって!?』 ヘルミーナ王妃は思わず声を荒立てました。 『そう...そういうこと...。道理であの騎士隊長め、歯切れの悪い物言いをしていたものだわ。やはり人任せにせず、自分で殺すべきね。ふふふふふ...』 |
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「ヘルミーナ王妃は、自分が持っている秘密の工房にこもり、怪しげな薬を作り始めました。 風船魚やらズフタフ槍の草やら取り出して、大釜に入れてぐつぐつと煮込みます。 3日3晩煮込んだ後にようやく出来た薬をながめ、王妃は不気味に微笑みます。 『さあ、後はこれをあの小娘に飲ませれば、この国一番の美女は今まで通り私だよ。ふふふふふ...』 なんと、王妃は邪(よこしま)な術を使う黒魔女だったのです。 |
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「一方アイゼル姫は。 親切な妖精さんたちのお家で過ごしながら、ひょっとしてお城の人が誰か迎えにこないかと待っていました。 妖精さんに教わってごはんの支度やお掃除を手伝い、晴れた日の昼間には外に出て迎えの馬車が来ないか見に行くのです。 |
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「そんなある日。 森の妖精さんの家の前でアイゼル姫は、具合が悪そうなおばあさんを見かけました。 『もし、どうかなさいましたか?』 心配して声をかけたアイゼル姫に、おばあさんは言いました。 |
「『ああ、お嬢さん、すみませんね。 孫にリンゴを持っていってやる途中でちょっと具合が悪くなってね。でももう大丈夫ですよ』 そして、持っていたかごからおばあさんはリンゴをひとつ取り出し、アイゼル姫に差し出しました。 『ご迷惑をかけたおわびに、お一つどうぞ』 |
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「『そんな、迷惑だなんて』 『いいえ、リンゴはたくさん持っていますから、遠慮しないで召し上がってくださいな。家でとれた、自慢のリンゴですから』 アイゼル姫は、すすめられるまま、リンゴを一口食べました。 すると、ああ、なんてこと! あっという間に、アイゼル姫はリンゴを取り落とし、その場に倒れて動かなくなってしまったのです!! |
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「おばあさんは、目の前で姫が倒れるのを見ても少しも慌てませんでした。 それどころか。にたり、と笑みを浮かべてつぶやきました。 『簡単に他人を信じてしまうのが、この娘の弱点ってところかねえ、ふふふふふ...』 口調が、いや声までも先ほどとはまるで違います。その声はなんと、アイゼル姫に嫉妬している王妃ヘルミーナのものでした。 『こうして、ばあさんに化けて出向いた甲斐(かい)があったよ。リンゴに仕込んだ“お迎えの薬”で、姫は確実にあの世行き。眠ったように死んでいける毒薬を使ってあげたのが、せめてもの慈悲ってところだわね。ふふふふふ...』 |
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「さて、家に帰ってきた妖精さんたちは、倒れているアイゼル姫を見て真っ青になりました。 『お...お姉さん? どうしたの...』 『い、息、してない...』 『うわ〜んっ、お姉さんが、お姉さんがぁ!!』 『お姉さんが死んじゃったぁ!?』 |
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「『お姉さんが死んじゃうなんて、そんなことあるわけないよ! けさまで元気だったのに!』 『でも...でもぉ...』 息絶えたアイゼル姫の前で、妖精さんたちはパニックになっています。 『...そうだ、ひょっとしたらあの人なら何とかしてくれるかも』 最年長の妖精さん(でも姿は子供)が、顔を上げて言いました。 |
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「『あの人って、だれ?』 『ほら、このへんにときどき薬草を取りにくる...』 『北のお城の王子さま!』 『あの人は白魔術が得意なんだよ。ボクのケガを治してくれたこともあったし』 『そっかぁ、王子さまならお姉さんを助けられるかもしれないね!』 かくして、最年長の妖精さんは、北のお城の王子さまを呼びに走っていきました。 |