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「昔むかしあるところに、アイゼルという名前の、雪のように白い肌の、美しいお姫様がいました。 姫の母親は身分のある人ではありませんでしたが、姫はたいそう気品があり愛らしく、父親である王様にたいそう可愛がられておりました。 |
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「ところで、アイゼル姫の継母にあたるヘルミーナ王妃も、国一番の美姫と謳(うた)わたれほどの美人でした。 王妃は、知りたいことを問いかければ何でも答える魔法の鏡を持っていました。 ある日、王妃は鏡に訊きました。 『鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?』 |
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「鏡は答えました。 『それは、アイゼル姫さまです』 |
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「思いもつかない答えに、ヘルミーナ王妃はたいそう腹を立てました。 『あの小娘が、いまや私よりも美しいですって!?』 怒りにかられた王妃は、アイゼル姫を殺してしまおうと思いました。 姫が自分の子供ではなく、しかも姫の実の母親が既に他界しているのをいいことに。 『騎士隊長、あのいまいましい小娘を殺しておしまい。私の命令です』 |
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「とんでもない命令をされて大いに困った騎士隊長は、とりあえず姫を城の外に連れ出しました。 姫を馬車にのせて、郊外の森を走っていきます。 |
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「『ねえエンデルク、この辺りって吸血鬼が住んでいると言われている森じゃなくて?』 騎士隊長は、良心の呵責(かしゃく)を感じながら答えます。 『吸血鬼など、ただの噂です、姫さま。それより姫さま、宝石草の自生地はこの辺りかと思われます』 アイゼル姫は言いました。 『そう? ならば降ろしてくださる? 自分で探してみたいの』 |
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「騎士隊長の予想通りの言葉です。姫を馬車から降ろしているときも、騎士隊長の心は痛みます。 『(この可憐な姫君を殺す...? 否、やはり私にはできない。私の剣はそのようなことをするためにあるのではない...!)』 騎士隊長に出来たのは、宝石草を探すのに夢中になっている姫を置いて、その場から立ち去ることだけでした。 |
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「『あら...?』 姫がふと気づくと、既に馬車は見えず、薄暗い森のなかにただ一人取り残されていました。 『いつの間にか迷ってしまったのかしら...どうしよう...』 既に日は傾き、不気味な鳥の鳴き声が耳をつきます。 |
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「困り果てたアイゼル姫の耳にふと、陽気な歌声が聞こえてきました。 『この歌は...?』 声のした方では、可愛らしい妖精さんたちが歌いながら歩いていました。 |
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「『...あれ? こんなところに人がいるよ』 『きれいなお姉さんだ〜』 『お姉さん、どうしたの〜?』 姫に気が付いた妖精さんたちは、口々に声をかけてきました。 |
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「『道に、迷ってしまったの。どうやって帰ったらいいか分からないの』 心細そうなアイゼル姫にいたく同情し、妖精のひとりが言いました。 『ねえみんな、とりあえずこのお姉さんをウチに泊めてあげようよ』 |
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「妖精たちは口々に答えました。 『いいよ〜』 『さんせ〜い』 こうして姫は、妖精さんたちの家に泊めてもらうことになりました。 |