あくる朝。
エルとルーディは、げんきよくしゅっぱつしました。
ぐっすりねむったせいか、エルの足はかろやかです。
「よなかに、まもの出なかったね」
エルは、ちょっぴりざんねんそうです。
よなかに、ねぞうのわるいエルをまものとまちがえたことは、ルーディはだまっていることにしました。エルに言っても、
「そんなこと、あるわけないじゃない。あたし、おしとやかなレディなのよ。べーだ」
と言われるにきまっているからです。
森をぬけると、たいらなのはらが広がっています。
でも、ここのじめんはじめじめしていて、ところどころに、そこなしぬまがあると言われています。そこなしぬまにはまってしまったら、どんなにもがいても、ぬけだすことができずに、死んでしまうのです。
ですから、こののはらには、板きれをならべたいっぽんみちが作られています。そのみちを歩いていれば、そこなしぬまにはまることもありません。
のはらをわたりきれば、そこがストルデル川です。
きょうも、空ははれています。
そよかぜが、どこからか花のにおいをはこんできます。
あたりには、ほかのたびびとのすがたはありません。
ふたりは、うたをうたったり、おしゃべりをしたりしながら、てくてくと歩いていきます。
「ねえ、あれ、何かしら?」
エルが、前の方をゆびさしました。
ルーディにも見えました。
いっぽんみちのまんなかに、まるいかたまりが、でんとおかれています。
「何だろう?」
木のけんをかまえたルーディと、うにをにぎりしめたエルが、そっと近づきます。
水色をしたまるいかたまりは、板きれからはみだすくらいの大きさです。どかさないかぎり、じゃまになって、前にすすめそうにありません。
「なんか、おいしそうね」
エルが言います。
たしかに、言われてみれば、おいわいやおまつりの時にたべる、デザートのゼリーかムースににています。ただ、エルのせたけとおなじくらい大きく、もしおかしだったとしても、とてもたべきれそうにありません。
ルーディは、けんの先で、そのまるいものをつついてみました。
つついたところはへこみますが、ぶるん、とゼリーのようにふるえて、もとにもどってしまいます。
ルーディは、マリーおばちゃんにおそわったことを、いっしょうけんめい思い出そうとしました。なにか、心にひっかかることがあるのです。
エルは、うにをおいて、ぺたぺたと丸いかたまりにさわっています。
「うふ、きもちいい」
その時、ぶるるん! と水色のかたまりがうごきました。
「きゃっ」
エルがびっくりして手をはなします。
ゼリーのようなまるいものは、ずるずると板をこするようなおとをたてて、ゆっくりとむきをかえました。
「わあっ!」
ルーディもさけびます。
こちらをむいた、水色のまるいかたまりには、なんと、目と口がついていたのです。
たてに長く、大きくてくろいふたつの目は、ルーディのかおくらいあります。
口はとじていますが、口をあければ、エルなどはあたまからのみこまれてしまうかもしれません。
「ねえっ、何なの?」
あとずさりしながら、エルがききます。
ルーディは、マリーおばちゃんにおそわったことを思い出しました。ストルデル川のあたりに出るまもののことを・・・。
「まものだっ! たしか、“ぷにぷに”っていう・・・」
「やだあっ、あたし、さわっちゃった!」
「とにかく、やっつけるんだ!」
ルーディはさけぶと、木のけんで“ぷにぷに”になぐりかかりました。 エルは、少しはなれたところから、
「うにぃ!」
とさけんで、うにをなげつけます。
「えいっ! やあっ!」
ルーディが木のけんをたたきつけるたびに、ぺちぺちとおとがして、“ぷにぷに”のからだがぶるん、とふるえます。でも、ぜんぜんきずがつきません。
エルがなげるうにも、はねかえされてしまいます。
それでも、ルーディは、いきがきれるまで、たたかいつづけました。
どのくらい、時間がたったでしょう。
“ぷにぷに”は、ずるずるとむきをかえると、ぷるん、とふるえました。
そして、ぴょん、ととんで、ぬまの方へおりていってしまいました。
「や、やった! おいはらったぞ!」
ルーディがうれしそうにさけびます。
「わあいっ!」
エルも、ばんざいをしました。
“ぷにぷに”にしてみれば、きもちよくひるねをしていたのをじゃまされたので、もっとしずかな場所へうつっていっただけなのですが。