あたりは、もうすっかり夜になっています。空には月がのぼり、森のどこかとおくから、フクロウのなき声が聞こえてきます。
「ふわあ・・・」
ルーディが、大きなあくびをしました。むりもありません。今日は1日じゅう、歩いていたのですから。
エルも、となりですわったまま、こっくりこっくりしています。
ルーディは、エルをつつきました。
「おい、エル、ねるなら、ちゃんとねどこでねろよ」
「ルーディおにいちゃんは?」
目をこすりながら、エルが言います。
「ぼくは、まものが来ないか、もう少し見はっているよ」
と、ルーディは、本の中の“きし”が、たき火にあたりながらけんの手入れをしているところを思い出しながら、答えました。ぜひ、まねをしてみたかったのです。
ふだんのエルなら、
「じゃあ、エルもいっしょにおきてる!」
と言いはるところですが、ほんとうにつかれていたのでしょう。エルはベッドのかわりのほし草のねどこに横になると、すぐにすやすやとねむってしまいました。
ルーディは、たき火のそばにすわって、本の“きし”とおなじように、木のけんを、ぬのでみがきはじめました。
火はぽかぽかとあたたかく、だまってすわっていると、ねむくなってきます。
ルーディも、そろそろねようか、と思って、立ち上がりました。
その時です。
森のおくの方で、ガサッという大きなおとがしました。
ルーディはびっくりして、けんをかまえ、おとのした方をむきます。
とうとう、まものが出たのでしょうか。
でも、そのあとは、何のおとも聞こえず、森はふたたびひっそりとしずまりかえりました。どうしよう・・・。
ルーディは、かんがえました。
本の“きし”だったら、すぐにおとのしょうたいをたしかめに行ったでしょう。
でも、まっくらな森のおくへひとりで入っていくのは、どうも気がすすみません。
ほんとうのところ、ルーディはこわくてしかたがなかったのです。
ルーディは、その場に立ったまま、そっと耳をすませてみました。
あいかわらず、森はしずまりかえったままです。
行ってみようか・・・。でも、つよいまものがいたら・・・。
その時、ルーディは、エルのことを思い出しました。
そうだ、もし、ぼくが森に入ったあとで、まものがエルにおそいかかったりしたら、たいへんだ。ぼくが、エルのそばにいて、まもってあげないといけないんだ。けっして、こわいから行かないんじゃないぞ・・・。
そう考えて、ルーディはけんをかまえたまま後ろにさがり、ほし草の山にこしをおろしました。目は、ゆだんなく、おとのした方にむけています。
でも、だんだんと、ルーディのまぶたはおもくなってきます。
じぶんでも気がつかないうちに、ルーディはほし草のねどこに横になり、ぐっすりとねむりこんでしまいました。
どれくらい、時間がたったでしょうか。
ルーディは、はっと目をさましました。
なにかが、ルーディのむねにのしかかって、おさえつけています。いきがくるしくなって、目がさめたのです。
(しまった! まものだ!)
ルーディは、あわてて起き上がろうとしました。しかし、まものはルーディにしっかりとのしかかっています。
ルーディはもがきました。すると、やっと右手がじゆうになりました。その右手で、まものをおしのけようとします。
(あれ・・・?)
ルーディは、ふしぎに思いました。まものは、ルーディをおさえつけるだけで、ほかには何もしようとしません。
ルーディは、もういちど、よく見て、まもののしょうたいをたしかめようとしました。そして、右手でまもののからだをさわってみます。
まもののからだは、ぬののような手ざわりです。そして、あたたかでした。
(なあんだ)
まもののしょうたいに気づいたルーディは、ひょうしぬけしました。
ルーディのむねにのしかかっていたのは、エルのおしりとりょうあしだったのです。
「ほんとに、エルったら、ねていてもおてんばなんだから・・・」
あまりのエルのねぞうのわるさにあきれて、ルーディはつぶやきました。
そして、エルをおこさないように、そっとからだのむきをかえます。
エルは、むにゃむにゃとなにやらねごとを言って、そのままねむっています。
「ふう・・・」
ルーディは、ためいきをつきました。あいてがまものでないとわかって、あんしんしたような、がっかりしたような気分です。
ふと見ると、たき火はきえてしまっています。でも、そのかわり、東の空はもう明るくなりかけています。
今日は、いよいよストルデル川につきます。
まものは出るのでしょうか。
ちゃんと、マリーおばちゃんにやぎのつのを取ってきてあげることができるのでしょうか。
ルーディは、まものをやっつけるところを思いうかべながら、もうひとねむりすることにしました。