「ぼうけん? ふうん、おもしろそうね」
エルの目がかがやきました。
ルーディは、しまった、と思いましたが、もうあとのまつりです。
「きめたわ。あたしもぼうけんに行くわよ、いいこと?」
エルは、アイゼルママのまねをして、きどった口ぶりで言いました。
「だめだよ。エルはまだ小さいじゃないか」
ルーディは、シアママとおなじことを言っています。
「やーよ。ぜったいにぜったい、いっしょに行くんだもん。それに、ひとりじゃあぶないわよ。ケガした時に、なおす人がいないとこまるでしょ。ママも、まえはパパといっしょにぼうけんしてたって言っていたわ」
ルーディは、ためいきをつきました。こうなっては、エルはぜったいに行くと言いはるにきまっています。
「でも、エルのママがゆるしてくれないだろ?」
「じゃあ、ママに聞いてくる。ママがゆるしてくれたら、いっしょに行くわよ。よくって?」
そう言うと、エルはパタパタと走っていってしまいました。
「はあ・・・」
ルーディは、もういちどためいきをつくと、れんしゅうをやめて、家に帰ることにしました。
あくる朝。
ルーディは、ストルデル川にむかってしゅっぱつしました。
こしに木のけんをさし、マリーおばちゃんにかりたかごをせおっています。今は、シアママがつくってくれたおべんとうが入っているだけですが、帰る時には、たからものでいっぱいになっているはずです。
ルーディのあたまの上には、くもひとつない青いそらがひろがっています。
どこかで、小鳥がさえずっています。牛のなき声が聞こえてきます。
そして・・・
「ルーディおにいちゃん、まってよ。レディがいっしょなんだから、気をつかってよね!」
ルーディとおなじようにかごをせおって、うしろからとことことエルがついて来ています。
きのう、あのあと、アイゼルママがルーディの家に来て、シアママとマリーおばちゃんといろいろと話し合っていました。そして、エルがいっしょにぼうけんに行くことを、ゆるしてくれたのです。
エルは、いつもはかわいいドレスを着ていることが多いのですが、今日はルーディとおなじような、男の子みたいなかっこうをしています。かごの中には、おべんとうのほかに、ちくちくしたとげがはえている“うに”がたくさん入っています。
「まものが出たら、ぶっつけてやるのよ」
と、エルもはりきっています。
ふたりは、ぽかぽかした日のひかりにてらされて、のはらのまん中のいっぽんみちを歩いていきます。
おだやかで、とてもまものが出そうなようすはありません。
「ねえ、ルーディおにいちゃん、まものはまだ出ないの?」
エルがたいくつそうに言います。
ルーディは、ちょっと考えて、答えました。
「そうだな・・・。今はひるまだから、まものはねてるんだよ。きっと、夜になれば、出てくるんじゃないかな」
「ふうん。じゃあ、はやく夜にならないかな」
そうです。ストルデル川に行くには、とちゅうで夜を明かさなければならないのです。どこかで、ねる場所をさがさなければなりません。
その日は、めだったできごともなく、日が西にかたむいてきました。
「つまらないなあ。これじゃ、ぼうけんじゃなくて、ハイキングだよ」
ルーディは、木のけんをふりながら、近くに見えてきた森に向かって歩いていきます。でも、そばであれこれとうるさく話しかけてくるエルがいなかったら、もっとたいくつしていたにちがいありません。
「よし、こんやは、あの森でねよう」
ルーディは言いました。
「とうとう、まものが出るのね」
エルは、つかれたようすも見せずに言います。
ルーディは、道をはずれて森の中に入ると、しばらくあたりを見てまわりました。そして、たいらで広くなっている場所を見つけました。マリーおばちゃんにおそわったとおりの場所です。
「よし、ねる場所はきまった。エル、ねどこをつくるから、手伝ってよ」
ルーディは、かごをおろすと、エルをふりかえって言います。
「どうすればいいの」
「こっちだよ。来て」
と、ルーディはエルをつれて、森の入口にもどります。
そこには、牛のえさになるほし草が、山のようにおいてありました。
「これが、ベッドになるんだ。さあ、はこぼう」
「レディのするしごとじゃないわね。でも、しかたないわ」
ふたりは、ほし草をりょうてにかかえられるだけかかえて、森の中のひろばにもどります。
2、3かいも行ったり来たりすると、ほし草はふたりがうずもれてしまうほどのりょうになりました。
「わあいっ!」
エルは、しげみの方から走って来ると、ほし草の山にとびこんであそんでいます。
それをよこ目に見ながら、ルーディは火をおこすしたくをはじめました。
ねどこに火がうつらないように、ちゃんとはなれたところで、マリーおばちゃんからもらった“カノーネ岩”を取り出します。
ひとかたまりのほし草の山を“カノーネ岩”にちかづけて、
「えい!」
と、木のけんで“カノーネ岩”をたたきます。
“カノーネ岩”がはじけ、小さな火のかたまりがとんで、ほし草にもえうつりました。
それがきえないうちに、森の中におちているかれえだをつぎつぎにくべていきます。
たちまち、たき火はもえあがり、すぐにはきえないようになりました。
「あ、火あそびしてる。いけないんだぁ」
エルがちかよって来ます。
「ばかだなあ。夜はたき火をして、まものが来ないようにしないといけないんだぞ」
「あら、まものが来ないと、やっつけられないじゃない」
「でも、ねているところをおそわれるのは、いやだろ?」
「それも、そうね」
ルーディのとなりに、ちょこんとすわったエルが言います。
しばらくのあいだ、ふたりはだまりこくって、ぱちぱちともえるほのおを見つめていました。