◆Episode−6
ふたりきりで取り残されたノルディスとアイゼルは、そっと顔を見合わせた。ランプの光の中で、アイゼルのエメラルド色の瞳とノルディスの茶色の瞳が見つめ合う。
どちらからともなく口元に微笑が浮かび、大きくうなずき合った。
「うまくいったのかしら」
アイゼルがわずかに小首をかしげる。
「たぶんね・・・。あとは、成り行きにまかせるしかないよ。これだけのおぜん立てを整えたんだから」
ノルディスが軽く肩をすくめる。
「それにしても、アイゼルもよく考えたなあ。ぼくの誕生日までだしに使うなんて」
「ほんとに、エリーもダグラスも、見ているこっちがいらいらするくらい進歩がないんですもの。そろそろお互いの気持ちに気付いてもいい頃だわ」
(それと、あなたもね・・・)
と、アイゼルは心の中で付け加えた。小物入れの中の小さな包みを握りしめる。
「ね、ねえ、ノルディス・・・」
うつむいたまま、そっと包みを取り出す。きれいにラッピングされ、ピンクのリボンがかけられている。今にもノルディスに差し出そうとした時・・・。
ランプの炎が、不意に消えた。
「え?」
「きゃっ、何?」
思わずアイゼルがノルディスにしがみつく。
「どうしたんだろう。こんなに早く油が切れるはずはないんだけど」
「何を落ち着いているのよ! こんな真っ暗闇の中に取り残されるなんて・・・」
だが、冷静になってみると、この状況も悪くないことに気付く。
左手でノルディスのマントにしがみついたまま、アイゼルは右手に包みを持ち、そっとノルディスの右手の方にすべらす。
「ア、アイゼル? 何?」
「ノルディス・・・。お誕生日おめでとう・・・」
ノルディスの右手がしっかりとプレゼントをつかんだのを確かめ、アイゼルはささやいた。
その時、ノルディスが息をのんだ。
「あれは・・・?」
アイゼルも、それを見た。
「何なの?」
それは、少し離れた場所で、エリーとダグラスが見たのと同じものだった。
それまで、ランプの灯りの中で、人の目に触れなかったものだ。天井から垂れ下がった鍾乳石や、すべすべした壁が、うっすらと黄色っぽいほのかな光を発している。
と、その光はゆっくりと石の表面を離れ、すっと宙に浮いた。ひとつひとつの光は弱々しいが、無数の粒となって、宙を漂う。かすかに脈動しながら、ゆっくりと昇り、回転し、揺れ、幻想的に舞う。
アイゼルは、ぽかんとして見とれている。ノルディスが、呆然とつぶやく。
「アルベリヒだ・・・。アルベリヒの大集団だ・・・。そうか、冬の間は、気温が安定したここで、過ごしていたんだな・・・。それに、こんなに光るなんて・・・」
まるで、アルベリヒの群れは、恋する若者たちを祝福しているかのようだった。
◆Episode−7
「どうやら、うまくいってるみたいね」
ほのかな色っぽさを感じさせる、間延びした気だるげな口調で、すべすべした岩肌にもたれたロマージュがつぶやく。傍らでは、岩の床にどっかと座り込んだルーウェンが、燃えるランプの炎を見つめている。
「まったく、あんたの計算は大したもんだよ。あんたに言われた通りの量だけ、あいつらのランプの油を抜いておいたんだけど、こんなにぴったりのタイミングで燃え尽きるとはね」
ルーウェンは感心したように、なかばあきれたように言う。
「結局、のせようとした方も、のせられた方も、ロマージュさんのてのひらの上ってわけか」
「うふふふ、だって、あの子たちったら、まだまだ子供なんだもの。少しは大人が手助けしてあげなくちゃね」
「それにしても、あんた、踊り子だろ? 踊るんじゃなくて、踊らせる方が得意なのかい?」
「うふふ、踊るのは、あたしの仕事」
そして、ロマージュは舌をぺろりと出した。
「踊らせるのは、あたしの趣味よ」
「おー、こわい」
大袈裟に身を震わせ、大きく肩をすくめるルーウェン。
ロマージュは、ルーウェンの方に身を乗り出す。
「ねえ・・・。この際だから、あたしたちも・・・」
その時、ランプの火が、不意に消えた。
<おわり>
私が以前に描いた絵を見て、○にさんが寄せてくれたお話です。
お嬢さんたちもいろいろ画策しますが(笑)お姉さまには敵いません。かわいい恋をさりげなくそれとなくプッシュしちゃうロマージュさんの策略は、○にさん家(ふかしぎダンジョン)で他にも読めます。