ゆーら博物館〜アトリエ・俺屍ファンサイト〜

やきもきした時間が過ぎていった。

採取かごをかかえたクライスが研究室に戻って来たのは、夕方も近くなってからだった。採取かごの中には、青々とした竹が何本か入っている。

「何、これ。ただの竹じゃない。これがどうかしたの?」

眉をひそめるマルローネ。クライスはもったいぶった口調で、

「わたしの考えが正しければ、ここに謎を解くカギがあるはずです。マルローネさん、あなたが育毛剤の調合に使った竹も、これとおなじものですか」

「そうだよ」

「では、どなたでもけっこうです。この竹を割ってみてください」

アイゼルと顔を見合わせたエリーだが、進み出て竹を受け取ると、作業台の上の道具を使って竹をまっすぐ縦に割る。

「割りましたけど・・・」

「それでは、筒の中を見てみてください」

クライスにうながされて、自分が割った竹の中に目をやったエリーは、

「あれえ、なんか、白い糸がふわふわしてるよ」

マルローネもアイゼルも、しげしげとながめる。確かに、青竹の中に、非常に細い白糸のようなものがからみ合い、密集している。ザールブルグでは何度も竹を調合の材料にしているエリーとアイゼルだが、このようなものを見るのは初めてだ。

「これが、アイゼルさんとエルフィールさんに起こったことの原因です」

クライスが静かに言う。

「え?」

「何なんですか、この糸みたいなものは」

いぶかる3人に、クライスは1冊の古ぼけた参考書を開いてみせた。

「このページの挿し絵を見てください」

指で示された、その絵を見たエリーが、息をのむ。そこには、成長した竹の表面 から生えているように見えるたくさんの猫耳が描かれていた。

「これって・・・」

「そう、あなた方の頭に生えたのは、これなんですよ。ネコミミタケという、キノコの1種です」

「え、ネコミミタケ〜!?」

「なによ、それ」

あ然とする3人。クライスは説明を続ける。

「この参考書は、アカデミーの書庫の片隅で見つけたもので、このケントニスの周辺に生える珍しい植物を紹介したものです。これによると、ネコミミタケは、このエル・バドール特有のキノコで、竹の内部で菌糸を伸ばして成長し、雨が降ると一斉に生え出す、と書かれています。もちろん、命名の由来は、その形が猫の耳にそっくりなことからでしょう。さて、マルローネさんが調合の材料にした竹にも、このキノコの菌糸が入っていたと考えられます。他の材料と混ざったために、成長が促進されて、普通では育たないような環境でも根を張ってしまったのでしょうね」

参考書を閉じたクライスは、エリーとアイゼルの顔を見て、微笑む。

「でも、安心してください。ネコミミタケの寿命は、そう長くはありません。1週間もすれば、自然に枯れて消えてしまうでしょう。もともと、マルローネさんが作った育毛剤なら、そう効き目が長続きするはずもありませんからね」

「え・・・でも、1週間もですか?」

情けない声を出すアイゼル。エリーが元気付けるように言う。

「いいじゃない、研究室にこもって実験していれば、1週間なんて、あっという間だよ」

クライスはうなずき、

「さあ、これで一件落着ですね。ほんとうに困ったものです。マルローネさんのおかげで、また貴重な1日が消えてしまいました。ま、これもアカデミー最大の問題児と関わり合ってしまった者の運命なのでしょうか・・・」

すると、ここまで黙っていたマルローネが、

「クライス・・・。確かに、材料をよく調べずに使ってしまったあたしに責任はあるわよ。それに、参考にしたメモにそれらしい注意書きがあったのに無視しちゃったしさ。でも、そんな言い方ってないんじゃない?」

そして、右手を後ろに回したまま、クライスに近付く。

「それと、あたし、ひとつだけ確認したいのよ。あたしの特製育毛剤、女の子に効くことはわかったんだけれど、男の人にも効き目があるか実験してみたいと思うの。もちろん協力してくれるわよね、クライス?」

にっこりと笑ったマルローネは、避ける間を与えず、右手に隠し持っていた薬びんから、『猫耳育毛剤』をクライスの頭にたっぷりと振りかけた。

「な、何をするんですか!?」

あわてて、頭をかきむしるクライス。マルローネは平然と、

「あら、どうせ1週間で元に戻るんだから、いいじゃない。あたし、見てみたいな〜、クライスの猫耳」

「じょ、冗談じゃない! ああ、なんてことをしてくれたんですか!」

叫ぶと、クライスはあたふたと部屋を飛び出す。しばらくの後、別の研究室のドアが閉まり、内側から鍵を掛ける音が聞こえた。

それから1週間、クライスが自分の研究室に閉じこもって、一歩も外に出て来ようとしなかったのは言うまでもない。

<おわり>


3000hit突破のお祝いに、○にさん(ふかしぎダンジョン)にいただきました投稿小説です。

...私の弱点です。かつて『猫耳推進委員会』などという訳のわからんペンネームを使ったことのある私にとって、これはもう、狂わずにはいられませんでした!!