*ノルディスの場合*
今日も今日とて、夜更かしして本を読みふけるノルディス。
ふと、今はどれくらいの時間だろうと思った。
そろそろ外が明るくなってきてもいい頃だ、とは思うのだが、外は相変わらず暗い。
疲れた頭で考えることしばし。
「あ!今日は確か、日食の日だ!!」
これでは外がいつまでも明るくならないはずである。
どうしよう。講義の始まる時間を過ぎてしまっていたら!
朝の鐘の音はまだ聞いていないが、本にのめり込んで聞き逃してしまったかもしれない。
とにかく慌てて、どうにかして今の時間が分からないかと、つい窓を開けて外を見た。
「うわ...あれ、何だろう?」
そのときノルディスが見た物は。
東の城壁から徐々に顔をのぞかせる、輝く円環だった。
ノルディスは、その不思議なものが城壁の上の空に全貌を現すまで、じっとそれを見ていた。
そして、鐘が鳴り響いたときようやく、日食の日はアカデミーの講義が休みになるということを思い出したのであった。
*ヘルミーナの場合*
「失礼します...ひっ!」
研究室に入ってくるなり、奇声を発した弟子に、ヘルミーナは言った。
「何、変な声を出しているんだい」
「だ、だって先生...この部屋が暗くて...」
「当たり前じゃないか、今日は何の日だい?」
「...日食の日です」
アイゼルは、何やら色々と言いたそうな表情を見せたが、そのまま特に何も言わずに部屋に入ってきた。
「それで先生、今日は何のご用でしょう」
ヘルミーナは、手に持っていた燭台を机に置いて言った。
「私の実験の手伝いをしておくれ。この日食というロケーションは、光を嫌う実験には打ってつけだからね。この日のためにと、あたためておいたアイデアが山ほどあるのさ。ふふふふふ」
気分が上々だったので、アイゼルのため息と「やはりそういうことですか」というぼやきは、聞こえてない振りをしてやることにした、ヘルミーナであった。
*ルイーゼの場合*
ルイーゼは今日も、アカデミーの開店準備を始めた。
通りかかった学生が、声をかける。1年生だ。
「あれ〜、ルイーゼさん。今日のような日でもお店開けるんですか?」
ルイーゼは、にっこり微笑む。
「ええ、そうよ」
彼は首をかしげる。
「今日は講義とかお休みでしょう? 誰もこないんじゃないですか?」
「それがね、意外にそうでもないんですって。研究室では先生方やマイスターランクの人たちが休みなく研究にいそしんでいらっしゃるし、それに、日食の時にしか採れない珍しい材料を採って、持ってきてくれる人もいるんですって。先輩がそうおっしゃっていたわ」
「珍しい材料? あの、それって何ですか?」
好奇心を見せるその1年生に、ルイーゼは微笑みながらも首を横に振って見せた。
「それは、後々のお楽しみね。勉強を進めていけば、いつか知ることが出来るわ」
*ダグラスの場合*
「ふふふ、大漁だ」
エルフィールは、暗い道を、上機嫌で歩いていた。
「なあ、その花ってそんなに価値があるものなのか?」
今日一日、護衛を務めているダグラスが声をかける。
「うん。ドンケルハイトって言ってね、日食の日にだけ咲く花なんだ。強烈な大地の力を秘めてるんだって。アカデミーでも高く買い取ってくれるから、家計が助かるよ」
「へえ」
ほくほく顔のエルフィールにつられて顔がゆるみそうになり、慌てて周りを見回すダグラス。
一日中暗いこの日、街に帰り着いても彼の仕事は終わってはいない。
魔物をひとりでばったばったとなぎ倒す魔法力の持ち主とはいえ、華奢な女の子が夜道をひとりで歩くのは物騒だから。
それで、近くの森までだからひとりで行けると言う彼女の言い分を無視して、採取についていき、今もすれ違う人々にそれとなく睨みをきかせている。
まさか聖騎士が付き添っているのに、彼女にちょっかいを出そうなんていう輩はいないだろうが...。
*アイゼルの場合*
アカデミーの夕方の鐘が鳴った後、アイゼルはようやく師から解放された。
まったく、先生ってば人使いが荒いですわ。
おまけに出会い頭にロウソクで下からご自分の顔を照らして、脅かすんですもの。つくづく悪趣味な方ですわ。
...まあ、高度な実験を直に見ることが出来るという点においては、ありがたいと言えなくもないけれど。
こんなこともあろうかと、夕方からの外出許可を取っておいてよかった。
今日はエルフィールの誕生日ですものね。
贈り物はやはり、その日のうちに渡すに限るわ。
アイゼルは部屋に戻ってプレゼントの包みを持つと、いそいそとアカデミーを出ていった。