「さあマリー、今晩はあんたの番だよぉ。食事の用意、おねが〜い」
「簡単なモンでいいからさ、何か適当にやってくれよ」
焚き火を起こしながら、ミューとルーウェンが言った。
「ま、任しといて。ちょいちょい〜っと用意するから」
答えたのはマルローネ。彼女の笑顔が少々引きつっていたことに、ルーウェンやミューが気が付いたかどうか。3人が今いるのは、鬱蒼(うっそう)と茂るメディアの森であり、夕闇迫る薄暗い森の中では、あまりよく物が見えるわけではない。
そうしてマルローネは、ひとり焚き火の前に残された。連れのふたりは、空いている水袋に水を汲みに行ってしまった。
今日は初めての遠出で、彼女にとっては、初めて外で食事を作ることになる。
「さて、どうしようかなぁ...」
出かける日数が短くてすむうちは、すぐ食べられるものを出すことができたけれど、今回のように何日も旅をしていたら、保存食しか手元に残っていない。
「簡単なものでいいって言ってたわよねぇ...」
手元にある食材は、干し肉と乾パン、そして材料採取のついでに採っておいた、食べられる植物各種。
乾パンはともかく、干し肉は保存が利くように、かなり塩気を多くしてからからに乾かしてあるので、そのままでは食べられない。普通は野菜などと一緒に炊いて、スープにして食べる。
「大丈夫よ、スープなんて、お湯を沸かして具を入れるだけじゃない」
自分の独り言にうなずき、マルローネは鍋に水袋の水をあけ、火にかけた。
それからしばらく後。
焚き火の前に戻ってきたルーウェンは、驚いて声を上げた。
「おいおいマリーさん、焚き火の上に直に鍋を置いてどーすんだよっ」
「え?」
確かに、乾いた木の枝をたくさん積み上げたその上に、鍋がどんと乗っている。そのせいで、火は鍋を除けるように頼りなく燃えているありさま。
「これじゃ火が消えちまうよ。こういう太い枝とかで、こう支えを作って...。今まで俺たちがやってたのをあんたも見てたはずじゃないか?」
ルーウェンは、二股になった太い枝を地面に挿して見せながらぼやいた。マルローネは頭をかいた。
「あー。そういえばそうだったねー。道理で、なかなかお湯が沸かないって思ってたんだ、あははは」
それでも何とか、鍋の中身は湯気を立てている。
「あらら。でもこれなら、鍋をきちんとかけ直して強火で炊いたら、なんとかなるんじゃなーい?」
ミューが提案した。それでルーウェンが分厚い布で鍋の取っ手をつかんで火から下ろし、ミューが支えを作って鍋をもう一度かけ直した。
「うわー、これならあっと言う間だわ〜。すごいっ」
十分な空気を送られて勢い良く焚き火が燃えるのを見て、マルローネは感心した。まもなく、スープはぐつぐつと音を立てて煮えてきた。具の菜っぱが、くたっと柔らかくなっている。
「さーて、そろそろ出来上がりかな〜? ちょっと味見してみよう」
スープを混ぜていたミューは、それを椀に少しとって口を付けた。
「!?」
ミューの表情がこわばる。
「? どうしたんだい?」
「何だか、とっても変。このスープ」
「ええっ?」
「ミューさん、ちょっと俺にも食わせてくれよ」
ルーウェンはミューから椀を受け取り、干し肉のかけらを一口食べた。こちらも表情がさっと変わる。
「...み、水を...」
マルローネは慌てて水を注いでルーウェンに渡した。コップを一息にあおって、ルーウェンはふうっと息をついた。
「マリーさん、湯が沸いてから肉を入れたんじゃないか? 干し肉は水から煮ないと塩が抜けないよ...」
ルーウェンが、ややあきれた調子で言うのを聞いて、マルローネは首をかしげた。
「そ、そうなの?」
「そうよぉ」
ミューが付け加えた。
「それよりさぁ、マリー、あんた、昼間に採っておいた菜っぱ以外に何か入れなかった?」
「...えーと、実は間違えてヤドクタケを入れちゃって」
「ええっっっ!!???」
ヤドクタケは猛毒だ。二人はのどを押さえて、慌てて立ち上がった。
「もちろんすぐに気が付いて捨てたわよ。でもちょっと不安だったから、ヤドクヤドリをあるだけ入れて」
二人はその場で立ち止まったものの、まだ顔色は冴えない。確かに、ヤドクヤドリは強力な解毒作用がある植物だが。
「でも、ヤドクヤドリってかなり苦い味がするのよね。だから、ハチの巣を割ってミツをちょっと入れて、甘みを加えたんだけど...」
「......」
「...ちょっとだけでいいから、自分で食べてみて」
差し出された椀を手に取り、マルローネはスープをすすった。
「何これ...水っぽいけど、苦くて、甘くて、とろとろしてて...うぷ」
マルローネは口を押さえて立ち上がり、後ろを向いて数歩走り、口の中身を吐き出した。
連れ二人はその様子を見てはいなかった。彼らも、つられて吐いていたからである。
「...マリーさん。これからは、あんたにだけは食事の用意を頼まないことにするよ...」
ルーウェンはぺったりと座り込み、疲れ切った声で言った。
「ごめんなさい。昔から、料理とか苦手で。寮にいたときは食事が出ていたから、なおさら練習してなかったのよ」
マルローネは顔の前で手を合わせて謝っている。
「それならそうと言ってくれればいいのに〜」
ミューは乾パンをかじっている。今晩の彼らの食事は結局、この乾パンだけだ。街へ帰る日数を考えると、干し肉を無駄遣いするわけにはいかないから、スープの作り直しはしなかった。
「工房に引っ越してからは、少しだけ自炊するようになったから、何とかなるかもと思って...。でも干し肉入りのスープって、作ったことなかったし」
「作ったことがなかったからっていう問題かなぁ...」
ぼそりと呟くルーウェン。
「ルーウェン。...ま、気にしないで。失敗をいちいち気にしていても、いいことは何にもないから」
マルローネを励ますミュー。しかし、その励ましは必要だったかどうか。
「ありがとう、でも気にしてはいないわ。それより、やっぱりこのままじゃいけないから、料理の練習をしないとね。...決めた、明日も食事当番をやってみるわ!」
マルローネはすっくと立ち上がり、こぶしをぐっと握って高らかに宣言した。
「......」
「......」
絶句するルーウェンとミュー。マルローネは結局、全く懲りていないらしい...。
ばたっ。
「ん?」
マルローネは音のした方を見下ろした。ルーウェンが倒れていた。
「...実験台は、嫌だ...」
彼は泣きそうな声で呟いていた。
-Fin-
*あとがき*
マリーは料理ができただろうか? いや、そんなはずはない! そういうお話でした。筆者が不安に思っていること。ルーウェン君ってこんな性格でいいのかなあ? オチまで彼に押しつけてしまったし〜(汗)。
このお話について、マリーさんから(嘘)コメントが入っています。「失礼ね。この頃だってパンケーキくらいは作れたわよ! ...3枚に2枚は黒こげだったけど...」